産むんじゃなかった…文庫『「子供を殺してください」という親たち』から見える家族の本音

ども。元書店員のうしらく(@ushiraku)です。

殺人事件のうち、検挙数の半数を家庭内殺人が占める昨今。親が子を殺す、もしくは子が親を殺すというニュースを目にする機会が、日に日に増えていっているように感じます。

警察庁のまとめによると、2013年の殺人事件検挙件数のうち、被疑者と被害者の関係が親族間である割合は53.5%。実に半数以上が“家族同士の殺し合い”という悲劇の結末を迎えている。

NEWSポストセブンより引用

ぼく自身かなり複雑な家庭で育ったので、これらの事件を他人事とは思えません……。

そんな中で出会った一冊の本に、ぼくはものすごい衝撃を受けました。

『「子供を殺してください」という親たち』という本。

タイトルの時点で伝わってきたのは、「あんたなんか生むんじゃなかった…」という悲痛な叫び。全て実話で綴られている本書に、ぼくの胸は抉られたのでした。

押川 剛『「子供を殺してください」という親たち』

冒頭で書いたとおり、本書は全て実話

ざっくりとまとめると、モンスター化した子どもと、その親の末路を追った内容となっています。

自らは病気の自覚のない、精神を病んだ人を説得して医療につなげてきた著者の許には、万策尽きて疲れ果てた親がやってくる。過度の教育圧力に潰れたエリートの息子、酒に溺れて親に刃物を向ける男、母親を奴隷扱いし、ゴミに埋もれて生活する娘……。究極の育児・教育の失敗ともいえる事例から見えてくることを分析し、その対策を検討する。現代人必読、衝撃のノンフィクション。

著者である押川 剛さんは、1996年から「精神障害者移送サービス」という仕事をしており、精神疾患で悩む患者やその家族のサポートにあたっています。

その中で、親からの「子どもへの深い悩み」が多く寄せられているようです。家庭内暴力や刃傷沙汰を起こす子どもを、どうにかしてほしい。そういった親の悲痛な叫びが伝わってきます。

7つのケースから、親子間の問題を見ていこうというのが、本書の趣旨。どれもノンフィクションで読み応えがあります……。

  • ケース1.精神障害者か犯罪者か
  • ケース2.親と子の殺し合い
  • ケース3.依頼にならなかった家族たち
  • ケース4.すべて弟にのしかかる
  • ケース5.母と娘の壊れた生活
  • ケース6.親を許さない子供たち
  • ケース7.家族の恐怖は永遠に消えない

今回は、この中からぼくがピックアップした3つの話をご紹介したいと思います。

1.親を許さない子供たち(家庭内ストーカーと化した息子)

まずは、家庭内ストーカーの一件からいきましょう。

田辺卓也(30歳)は、学業では優等生ながらも、社会に出てからは適用できず無職に。そこからはずっと働くことはなく、実家にこもる生活を送ります。

両親は健在で共働き。経済的にはわりと裕福な部類と言えるでしょう。

でも、この田辺一家を覆う闇は、卓也による「家庭内ストーカー」。母や父の一挙手一投足を監視し、少しでも気に食わないところがあると暴れだすという。なかなか手がつけられない闇です。

一日中、自宅で卓也と一緒にいるのも辛い。一挙手一投足を見張られ、ひとたび地雷を踏んでしまえば、暴言が延々とつづく。何をするにも、卓也を中心に生活をまわさねばならず、二十四時間三百六十五日、拘束されているようなものだ。言ってみれば、家庭内ストーカーである。 「卓也を隣に乗せて運転していると、このまま車を走らせて、海にでも突っ込んでしまおうかと思うことがあるんです」  母親は言った。その青白い顔には、もはや何の感情も浮かんでいなかった

『「子供を殺してください」という親たち』より引用

モンスターと化した卓也は、厳格な家庭で心理的に追い詰められていた

卓也が学生時代に優等生だったのは、厳格な父の指導があったからだそうです。勉強を強要され、言うことが聞けないときは真夜中でも家から閉め出されたりなど。心理的な虐待を受けていたともいえます。

もちろん、親の教育全てが卓也を家庭内ストーカーに仕立て上げた原因ではないでしょうが、彼の幼少期を取り囲んでいた環境は、かなり厳しかったように感じました。

家庭内ストーカーとして、「暴君」と成り果てている子供たちも、その生育過程においては、親からの攻撃や抑圧、束縛などを受けてきている。過干渉と言えるほどの育て方をされる一方で、そこに心の触れ合いはなく、強い孤独を感じながら生きてきたのだ。卓也もまさに、その一人である

『「子供を殺してください」という親たち』より引用

卓也はその後、本人同意のもとで精神科病院へと入院します。が、入院してからもやはり親子間の「見えない癒着」は続いていて、卓也の両親への恨みは日に日に増していくのでした……。

2.親と子の殺し合い(アルコール依存症に陥った息子)

ケース2に登場するのは、木村則夫という30代男性。彼はアルコール依存症です。

大学時代から飲酒を始めた則夫は、最初から大酒飲みというわけではありませんでした。が、社会人になって3年が経つ頃、職場で上手くいかないことが続き、お酒を飲む量が徐々に増えていきます。

その後、酒の席でトラブルを起こし、退職。両親のもとで暮らし、働かずに酒を飲む生活が日常と化していくことに。

そして、酒を飲んだ則夫は家の中で暴れるようになっていきます。

則夫は以前にも増して酒を飲んだ。もはや歯止めになるものは何もなかった。両親に酒を買いに行かせ、夕飯だけでなく、夜食の支度までさせた。泥酔してもなお飲みつづけるため、所かまわず失禁や脱糞をした。  気に入らないことがあると、あいかわらず暴力を振るった。パソコンやテレビ、石油ストーブまで投げつけるなど、身近にあるものはすべて凶器に変わった。酒が入っているときほど、則夫は異常なまでの力を見せつけるのだった。

『「子供を殺してください」という親たち』より引用

則夫もまた厳格な父のもとで育てられた

先に紹介した卓也(家庭内ストーカーの息子)と同じく、則夫もまた厳格な父の元で育てられた息子です。

幼少期から父子の関係性がうまくいったことは一度もなく、則夫に対しては「ふがいない息子」と低評価。彼の進学先や就職先についても不満を漏らすことが多かったそう。

アルコール依存症と診断された則夫は、精神科病院の入退院を繰り返す

酒を飲みすぎる毎日を過ごす則夫は、心身ともにボロボロになり、精神科を受診することに。ここで「アルコール依存症」と診断を受け、入院することになります。

が、数ヶ月後に退院し、そこでまた飲酒をして暴れ、再度入院を繰り返すことに。退院しても飲酒という「習慣」を抜けきれず、入院前よりも更に暴れるようになります。

酔った勢いで刃物を振り回す則夫。それを止めようとした父は、自分の腕を切りつけられた反動で則夫を突き飛ばしてしまい、彼に大怪我をさせてしまいます。

当時のことを振り返って、父親が私に、こう言ったことがある。 「あのとき、則夫をそのまま放っておけばよかった。そうすれば、出血多量で死んだかもしれない。仏心を出して助けたりしたせいで、今もこうして苦しめられるなんて……」

『「子供を殺してください」という親たち』より引用

その後、則夫はまた精神科病院に入院しアルコール依存症の治療を受けることになるんですけど、彼がこの先社会に復帰して普通の暮らしを送るのは、かなり難しく感じました。

というか、もう両親と以前のように生活するのは無理でしょう。則夫の行末がどうなるのか…とても気になります。

3.母と娘の壊れた生活(ヒステリックな娘)

さて、最後に紹介するのは、かなり特殊な事例。母と娘の歪んだ関係性についてです。

まず、この家庭は家族構成が複雑で。母、姉、妹の3人家族です。父は他界していて、その多額の保険金で生活をまかなっていました。

ここでモンスターとして扱われているのは、姉の晴美(40代)

晴美は幼い頃から妹を目の敵にし、いじめていました。母から注意されても猛反発し、手に負えない始末。

そんな家庭に嫌気が差した妹は、16歳になって以降、寮制の高校生活を経て家を出ます。以降、母と晴美がひとつ屋根の下で暮らすことに。

元から強かった晴美の被害妄想は、年をとるごとにエスカレート。母を責め、監視する母娘関係になってしまいます。

晴美さんは三十歳を過ぎると、就職も結婚もしていないことに焦りを覚えるのか、被害妄想はますます激しくなっていた。 「こんな風になったのはお前のせいだ」と母親を責め、母親の手料理は「毒を入れただろう」と疑って手をつけない。晴美さんの命令で、母親は毎日、近隣のファーストフード店までハンバーガーを買いに行っていた。晴美さんは母親が買ってきたものを厳しくチェックし、ストローが一本足りないだけでも、店に苦情を言いに行かせた。

『「子供を殺してください」という親たち』より引用

娘からの無茶ぶりな命令や監視に疲れた母と、自分の命令を絶対視する晴美。

こじれまくった母娘の関係性と、2人の健康状態を回復させるため、それぞれ入院することに。晴美の行き先は精神科病院。

入院直後に病状が悪化した晴美は「多発性硬化症」と診断され、発語を失い、下半身も動かなくなっしまった。ここから、長い長い入院生活が始まります。

晴美の家庭環境には「厳格さ」が見当たらない

前に紹介した2つのケースは、どちらも「父が厳格な家庭環境」という共通点がありました。

が、こと晴美の家庭に関してはそれがない。父は他界しているし、母もそこまで厳しかったわけじゃない。

本書の中でも晴美の生育歴についてはあまり詳しく書かれていなかったので、何が原因で母娘の関係性が壊れたのか。原因を見極めるのがかなり難しいケースだと思います。

もともと晴美は被害妄想が強い性格だったそうだけど、「それだけでここまで悪化するのか?」という疑問が残りますね。

うしらく的まとめ

世の中、家族のあり方は人それぞれで、数え切れません。

どれが幸せで、それが不幸せか。それは誰にも分かりません。が、本書で取り上げられている家族が幸せだとは、ぼくには思えません。しんどいことの方が多いだろうから。

どんな子供でも、生まれた時は祝福されたでしょう。「生まれてきてくれてありがとう」って。

でも、子供が成人して以降モンスターと化した場合、それでも「あなたを産んでよかった。生まれてきてくれてありがとう」と、心の底から言えるでしょうか?

「子供を殺してください」と、言わない自信はありますか。